† Ca †
〔calcium〕
カルシウム 基準値:8.2〜10.5mg/dl パニック値:3mg/dl以下⇔14mg/dl以上


生体にとって必須。
生体内カルシウムの98%以上は骨組織中にリン酸塩、炭酸塩、フッ化物のかたちで存在。
血漿中カルシウムの約半分はイオンのかたちで、他の半分はタンパク〔主にアルブミン〕と結合して存在する。
骨の主成分であり、血液凝固に必須であるほか、神経刺激伝達、細胞内情報伝達のセカンドメッセンジャーとして、細胞機能の発現に不可欠。その代謝は副甲状腺ホルモンの支配下にある。

血清カルシウムの半分はアルブミンと結合し〔このため血清総カルシウム量はアルブミン量の影響を受ける〕、残りは生理的に重要なイオン化カルシウム〔Ca2+〕として存在する。
Ca2+が減少すると、筋や神経の静止電位が小さくなり、興奮が高まる〔テタニー〕。増加すると静止電位が大きくなり、興奮性が低下する。


<血清Ca値異常時の心電図と低Ca血症時の骨格筋症状>

<特徴>

● 99%はリン酸塩として骨質をつくっている。
● 細胞外液中のCaは骨のCaプールと平衡しながら一定の値を保っている。
● Caは1日約500〜800mgが食物から摂取され、その約半分が吸収される。
● 血清Caは一部イオン化、タンパク質〔約40%〕と結合、あるいはクエン酸、無機リン酸との複合体として存在している。
このうちイオン化カルシウムは恒常性が副甲状腺ホルモンやビタミンDによって維持されている。
細胞内のCa濃度は非常に低いが、膜の興奮性、ホルモン産生のセカンドメッセンジャーなどの重要な機能を持っている。たとえば高Ca血症では神経・筋肉の興奮性が低下し、イレウス、便秘、心電図上のC‐Tの短縮、昏睡などが起こり、一方、低Ca血症では興奮性が高まってテタニーなどの症状が起こる。また高Ca血症は尿細管細胞のADH感受性を低下させ多尿を来す。
イオン化Caは糸球体で濾過されるが、その99%は再吸収される。尿中排出量は1日100mg程度である。


<血清Ca値の異常>

Caイオンは心筋の収縮力を増強する方向に働く。その濃度の変動に伴い独特の心電図所見が現れるが、QRS波形に大きな変化が見られないので見逃されやすい。


● 高Ca血症

○ 症状 : 悪心・嘔吐、多飲・多尿、脱水症、脱力などをきたし、高度になると意識障害、昏睡をおこす。
○ 心電図特徴 : QT時間が短縮する。まれにQRS波の幅が広くなりPQ時間が延長する〔上図左〕。
○ 原因 : 副甲状腺機能亢進症、各種悪性腫瘍の骨転移、多発性骨髄腫、サルコイドーシスなどがある。

副甲状腺機能亢進症

副甲状腺の腫瘍や過形成により副甲状腺ホルモン〔上皮小体ホルモン:PTH〕が高値となる。
腎結石の頻度は高いが、副甲状腺機能亢進症に特異的な身体症状はなく、たまたま検査をして高Ca血症を発見されることが多い。
PTHは骨からのCa動員、腸からのCa吸収、尿細管からのCa再吸収を促進するので血清Ca値を高くする。同時に腎からのリン酸塩の排出を増加させるので、血清無機リンは低下する。

悪性腫瘍

様々な悪性腫瘍、多発性骨髄腫では骨破壊によるCaの遊離が高Ca血症を引き起こす。
多発性骨髄腫骨は単クローン性の形質細胞の潰瘍性増殖によるもので、単クローン性のγグロブリン産生を特徴とする。骨痛を訴え、骨破壊を示すX線像が得られる。

サルコイドーシス

免疫系の異常を伴う原因不明の肉芽腫性の疾患。
胸部レントゲン写真上の異常陰影で発見されることが多いが、皮膚、眼神経系、心臓、腎、骨、筋肉などもおかされ、それぞれの症状を呈する。
○ 予後 : 原疾患の予後に大きく左右される。
○ 対応 : ECG所見を医師に連絡する。

ジギタリス投与中の患者は、ジギタリス中毒を助長するので血中のジギタリス濃度を把握し、中毒症状〔嘔気、嘔吐、倦怠感、不整脈など〕の有無に注意する。
著しい高Ca血症への対応は、生食によるNa投与、ループ利尿薬〔ヘンレ上行脚でのCaの再吸収を抑制する〕により尿中へのCaの排泄を促すことが必要とされる。生命に危険を及ぼすので緊急治療が行われる。
通常、生理食塩水とループ利尿薬の併用投与が行われる。サイアザイド系利尿薬はループ利尿薬と反対にCaを増加させるので禁忌である。
腎臓での尿の濃縮力が障害され多尿となり、循環血液量が減少するので、輸液管理とともに経時的な水分出納バランスを把握する。
アルカローシスでは軟部組織へのCa塩の沈着〔異所性石灰化〕が起こりやすいため、結膜充血などの眼症状に注意する。
Ca含有薬剤〔一部の制酸薬など〕を避けるよう指導する。


● 低Ca血症

○ 症状 : 神経・筋の興奮性の増大が特徴的である。
自覚症状としては指、趾の知覚異常、骨格筋の痙攣など が起こり、クボステック〔Chvostek〕徴候やトルソー〔Trousseau〕徴候は、潜在的なテタニーの存在を示す〔上図右〕。
クボステック徴候は耳前部の顔面神経を指で軽く叩打すると顔面筋に痙攣が起こる。
トルソー徴候は上腕をマンシェットで収縮期圧よりやや高い圧で緊迫すると、1〜2分で助産婦手位を呈する。
○ 心電図特徴 : 高Ca血症とは逆に、QT時間が延長した波形となる。またそれに伴いT波の平低化や陰性化を見ることがある。〔上図左〕
○ 原因 : 副甲状腺機能低下症、慢性腎不全、ビタミンD欠乏症、吸収不良症候群などにみられる。

副甲状腺機能低下症

特発性機能低下あるいは甲状腺摘出に伴う副甲状腺の摘出の場合に定型的な低Ca血症が見られる。テタニー、不随意運動、低Ca血症が特徴的。

腎不全

腎不全は種々の腎疾患の終末像である。
腎不全ではCaの再吸収が低下するために血清中のCa濃度は低下する。Ca以外の電解質異常、腎性貧血、心、消化管、神経症状など全身的な症状・異常が現れる。
最終的な治療方法として血液透析、腎移植がある。

ビタミンD不足〔くる病〕

ビタミンDは肝および腎で水酸基がついて活性化される。したがって腎不全時には活性型のビタミンD欠乏から消化管からの吸収が減り、低Ca血症が起こる。このため副甲状腺の機能は二次的に亢進する。

吸収不良症候群

慢性膵炎などの慢性消化吸収不全ではCaとともに血清無機リンも低値となる。
○ 予後 : 血清Ca値の補正は容易であるが、長期的には原疾患の予後に左右される。
○ 対応 : ECG所見を医師に速やかに連絡する。

テタニー発生時は、舌圧子、バイドブロックを口腔内に挿入し、咬舌を防止する。
ベッドからの転落、誤嚥などの危険防止につとめる。
Ca剤の静脈内注射が行われる。通常、10%グルコン酸Ca10mlを10分かけて行う。心電図をモニターしながら慎重に行う。急速な与薬は心停止を起こす危険がある。
ジギタリス製剤を服用中の患者では、Ca剤使用により、ジギタリス中毒や不整脈を起こすことがあるので注意する。
テタニーは心因性の要素が大きく、過度の不安や精神的緊張で誘発されやすいので注意する。
ビタミンDはCaの腸管からの吸収を促進するので、指示されたCa剤やビタミンDを与薬する。
高P血症は低Ca血症誘発する。Caを含んだ食品は同時にPを含んでいるので注意する。


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基準値(正常値)は計測機器によって多少の違い(誤差)があります。各病院の検査データ基準値を目安にしてください。
また、表示単位が異なる場合は基準値が全く違う場合もありますので、検査値が大幅に違うときは同じ単位で表されているかも確認してください。

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