† ADH †
〔anti‐diuretic hormone〕=アルギニンバソプレシン〔arginine vasopressin:AVP〕
抗利尿ホルモン 基準値:0.8〜6.3pg/ml


抗利尿ホルモン〔ADH〕は腎尿細管で水の再吸収を促進し、欠乏すると尿崩症をきたす。
抗利尿ホルモン〔ADH〕はアルギニンバソプレシン〔AVP〕ともいわれ、視床下部で合成され下垂体後葉に蓄えられる下垂体後葉ホルモンである。
ADHは腎尿細管における水の再吸収を促進する機能を持ち、その分泌は血漿浸透圧と血液量、血圧などにより調節されている。
特に血漿浸透圧はADHの分泌刺激として重要であり、ADHの測定に際しては血漿浸透圧も同時に測定し、両者を併せて判定することが望ましい。

ADHは自由水再吸収を促進し、体液量と血漿浸透圧の調節を行っている。
よって、ADHの評価は、その分泌調節機序をふまえて考えなければならない。
ADHの測定はその分泌の減少〔欠乏〕した病態として尿崩症、および不適切に分泌の亢進しているSIADH〔ADH分泌異常症候群〕の診断に重要である。

ADHの測定に当たっては、血漿浸透圧の上昇、水制限、立位など多様な要因によって変動するので、採血に際しては30分の安静臥床後に行うことが望ましい。
臨床的には尿崩症における腎性が下垂体性かの鑑別やSIADHの診断に重要である。


<特徴>

●抗利尿ホルモンであり視床下部で合成され、下垂体後葉に蓄えられている下垂体後葉ホルモンの代表である。
●血液の容量受容体および浸透圧受容体を介して神経の刺激で分泌が高まる。
●浸透圧受容体は脳内に、容量受容体は心房や頚動脈洞にあると思われる。
●腎の遠位尿細管や集合管に働くことにより、水透過性を高め、水の選択的再吸収を促進する。
●この再吸収作用で水の再吸収がNaの再吸収を超すと濃縮尿となり、高浸透圧尿となる。逆にADHの作用が不足すると、水分の再吸収が少なくなり希釈され低浸透圧尿となる。
●血液量の減少と浸透圧の上昇およびストレスによりADHの分泌が促進する。
●ニコチンは視床下部を刺激してADHの分泌を促進する。アルコール、寒冷、コルチゾールはADHの分泌を抑制する。
●ADHは立位では高く臥位ではそれに比較して低い。夜間比較的高値を示し昼間は比較的低値を示す。
●欠乏症の代表が尿崩症、過剰症が不適合ADH分泌症候群〔SIADH〕である。

<生理的変動>

●尿崩症と多飲症との鑑別には水制限試験あるいは高張食塩水負荷試験を行い、ADHが反応して上昇するか否かをみる。血漿浸透圧が上昇するとADH分泌は促進する〔低下は分泌を抑制する〕。
●血圧低下、頻脈、精神的身体的ストレス、嘔気は分泌を促進する。
●喫煙は分泌を促進し、飲酒は分泌を抑制する。
●日内変動は夜間に高く、昼間に低い傾向がある。
●加齢とともに血漿浸透圧の上昇に伴い、増加傾向を示す。
●立位はADH分泌を高め、横臥位は減少する。


ADHの欠乏で発来する代表的疾患は尿崩症である。
多飲・多尿をきたし、1日尿量は3〜15リットルにも達する。
腎性尿崩症は、腎におけるADHの反応性欠如が原因で、血中ADHは代償的に高値をとる。

ADHの過剰分泌はSIADHで認められ、低Na血症、低浸透圧血症を呈する。


<高値疾患>

●ADH分泌異常症〔SIADH〕、浮腫性疾患、特発性乏尿症、アジソン病、脱水症、腎性尿崩症、出血、血圧低下、異所性ADH産生腫瘍、高Ca血症、慢性腎不全、手術などのストレス、麻酔

<低値疾患>

●尿崩症、心因性多飲症


<疾患の解説>

◇尿崩症
ADH分泌やその効果が不十分なため、多飲、多尿、口渇を示す病態である。原因不明の特発性尿崩症と異所性松果体腫瘍、脳外科手術、交通事故などによる続発性尿崩症に分けられる。
多飲多尿をきたす疾患として以下のものがある。
●抗利尿ホルモン分泌不足〔尿崩症〕
●習慣性多飲〔心因性多飲症〕
●遠位尿細管の抗利尿ホルモンに対する感受性低下〔腎性尿崩症、Fanconi症候群〕
●Henle係蹄におけるNa転送の障害〔Bartter症候群、高Ca血症〕
●アルドステロンの過剰〔原発性アルドステロン症〕
尿量は1日数リットルから10リットルになり、水分摂取制限をしてもなお多尿である。
続発性は原疾患による症状がみられる。
尿比重は1.010以下、尿浸透圧は300mOsm/kgH2O以下、血清Naは高値を示す。
水制限試験により尿量は減少せず、尿浸透圧は300mOsm/kgH2O以上に上昇しない。
バソプレシンテストを行えば尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kgH2O以上に上昇するのが特徴である。

◇抗利尿ホルモン不適合分泌症候群〔SIADH〕
血漿浸透圧の低下があるにもかかわらずADHの分泌が続き、高浸透圧尿が排泄される病態で、低Na血症、水中毒が特徴的である。
ただし、心、腎、副腎皮質、甲状腺、肝障害によるものは除くこととする。
肺ガンに多い異所性ADH産生腫瘍は有名である。
尿中へのNa排泄の持続、高張尿、腎機能および副腎機能正常、水分摂取制限により低Na血症の改善がみられないことが診断上重要である。


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